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なぜ、メモアプリから同期を外したのか

私は奄美大島に住んでいます。日本の本土から南へ約 380 km の島です。ここで小さな会社をやっていて、島を空から撮り、カフェバーを営み、地元の診療所やホテルや団体のウェブサイトとアプリをつくっています。MEMOROLL は、私たちが App Store に世界向けに出した最初のアプリです。メモアプリで、同期をしません。

同期をしない、というのは最初からの計画ではありませんでした。私がメモアプリを選ぶ基準の中に、同期は当たり前のようにありました。メモはクラウドのどこかにあって、スマホでもタブレットでもパソコンでも、同じ内容を見て編集できることこそ、「便利」だと考えていたのです。

考えが変わったのは、アプリ開発にあたり自分自身のメモアプリの使い方を客観的に観察したことがきっかけです。残しておきたいことのほとんどは、机から離れたところで浮かびました。仕事の休憩時間、海辺を散歩するとき、注文した料理を待っている時間。手にある端末は、いつもスマホでした。タブレットとパソコンは、ときどき読み返す場所で、それさえ減っていました。スマホは複数の窓のひとつではなく、ノートそのものでした。

そう見えた瞬間、同期は機能ではなく、コストに見え始めました。同期するには、メモがスマホを離れて、誰かのサーバー——この場合は私のサーバー——に置かれなければなりません。つまり、アカウント、ログイン、パスワードの再設定、守らなければならないデータベース、利用規約、そして「会ったこともない会社が、あなたの書きかけの考えを預かります」という静かな約束。私はその約束をしたくなかった。その人自身のスマホより上手に守れるとは思えなかったからです。

だから、別の問いを立てました。「どう同期するか」ではなく「誰が持つべきか」。答えははっきりしていました。書いた本人です。

MEMOROLL がしていること

開くと、カーソルはもう入力欄にあります。タイトルを考えることも、フォルダを選ぶこともありません。書いて、保存する。

その速さにこだわった理由は単純で、思いつきを書き留めようとしたことのある人なら分かるはずです。何かが浮かんだ瞬間から、指が入力欄に届くまでのあいだに、思いつきは薄れていきます。打つべきタイトル、選ぶべきフォルダ、開くのに一秒かかる画面。そのひとつひとつが少しずつ削り、ときには全部を持っていきます。思考と書かれた文字のあいだの距離を、スマホで可能なかぎりゼロに近づけたかった。このアプリの設計判断はすべて、その下流にあります。書く前の手順が一つでも増えるなら、入れません。

メモには時刻と、許可があれば場所が残ります。あとで、時系列・日付・カレンダー・地図・全文検索で振り返れます。

すべてはスマホの中のデータベースにあります。アカウントもサーバーもありません。解析も広告もなく、第三者の SDK も入っていません。

それだけなら、もろい。スマホは失くします。だから書くたびに、アプリはメモと写真をあなた自身の iCloud Drive の「MEMOROLL」フォルダにコピーします。その控えはあなたのもので、私は見ることができません。新しいスマホに替えたら、そこから戻します。全部を ZIP で書き出して、好きな場所に置いておくこともできます。出口はいつも開いています。

気に入っている小さな判断がひとつあります。日付の境目は 0 時ではなく朝 4 時です。深夜 1 時に書いたメモは、その日のものとして残ります。こういうことは、自分でしばらく使ってみないと正しくできません。

手放したもの

複数端末の話は手放しました。キーボードで長く書いてタブレットで読みたい人には、MEMOROLL は向きません。取り繕うより、はっきり言うほうがいい。

使われ方を知る手段も手放しました。私のところに数字は何も戻ってきません。代わりにあるのは、最初の数日で入れてくれた島の身近な人たちが、直接、何に迷ったかを教えてくれることです。ある人は、保存ボタンが分かりにくいと言いました。フロッピーディスクの絵で、いまの多くの人には何も意味しません。「保存」の文字と、最初の画面の一言に直したものを、翌日には審査に出しました。私が欲しい回路はこれです。一人の人、一つの文、一つの変更。

参加者が一人のタイムライン

MEMOROLL の見た目は、まるで SNS アプリのようです。メモは時刻と場所と写真つきの時系列で並び、フィードのように動きます。速く、読み込み画面もなく、何も待たせない。これは意図したものです。十年の SNS が、タイムラインがどう動くべきかを皆の親指に教えてしまった。それを捨てる理由はありませんでした。

入れなかったのは、他人です。フォローも、いいねも、コメントも、投稿する相手もいません。参加者は一人だけ、あなたです。一日をスクロールして戻る心地よさは、フォロワーがいなくても損なわれることはありません。むしろ、他の誰も入ることのできないビーチで、素っ裸で泳いでいるような開放感さえ憶えます。

それが何になるか

メモアプリと呼んでいるのは、それがメモアプリだからです。でも、時刻と場所を勝手に残してくれて、書いたものが手元を離れないと分かっているメモアプリには、何かが起きます。小さなことを書くようになる。どこで昼を食べたか。海がどう見えたか。失くしたくない一文。数週間もすると、時系列はもうメモの一覧ではなく、自分の言葉で、自分の端末に残った、日々の記録になっています。

私には、心がけているモットーがあります。毎日を繰り返すな。 長いあいだ、このことを意識してきました。今日は昨日と違う何かをしよう、と。実際に MEMOROLL の実機テストをしていて気づいたことがあります。一瞬一瞬を、時刻と場所ごと一つずつ残して、あとでスクロールして戻ると、「いつもと同じ」と片づけていた日々が、まるで同じではなかったことに気づいたのです。港の光が違った。すれ違った人が違った。昼に浮かんだ一文は、それまで一度も浮かんだことがなかった。日々が繰り返していたのではなく、自分自身が小さな変化を意識の隅に追いやっていたのです。アプリは何かを変えろとは言いません。ただ瞬間を残して、あなたの毎日が繰り返しでなかったことを、見えるようにするだけです。そしてそれが分かると、一瞬一瞬を少しだけ丁寧に過ごすようになります。その日を特別にするためではなく、その日がもう持っている変化を、逃さないために。

アカウントなし。SNS なし。同期なし。あるのは、あなたの記憶だけ。あなたの記憶は、あなたのもの。

One day. One person. One story.

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